定年2年生--- 「 私とパソコンと…」

  私は学生時代からエスペラント語をやっており、毎年世界のどこかで行われる世界エスペラント大会へ行きたかった。しかし、大会自体が1週間あり、旅行期間、若干の観光を考えると2週間の休暇を確保しないとゆっくり堪能できない。
  3年前、59歳になった時、この世界大会が翌99年にベルリンで行われることを知った。そこには長年文通をしている友人がいる。彼はこの大会の委員をしており、是非来いという。彼に会いたい、またこの旅行を新しい生活へのスタートにしたい、と思った

  以前から私は個人的にもパソコンを使っていた。メール、ワープロ、フォーラム、ホームページなどである。その経験からしても会社を離れた人にはコンピューターは欠くべからざる物だと思っていた。特にメールは友人との交流を保つために是非必要であると思った。
  それまではデスクトップ・パソコンを使っていたが、今後、体力も衰え、動かしたりするにも、また故障の時の持ちこみを考えると、少し高くなるが、ノート型パソコンが望ましい。そこで辞める予定の半年前に、液晶ディスプレイのノート型パソコンを買った。新しい設定や使い方も会社の人で詳しい人も多かったので、その力を借りた。

  定年になったら、パソコンをやるよ、という人もいるが、それは非常に難しい。パソコンというのは意外なところでひっかかり、誰かに聞かないと前に進まないことが多い。就労中であれば、周囲に詳しい人を見つけられるが、辞めてからでは聞く人もいない。結局、パソコンは押入れの肥やしになってしまう。ちょうどこの時期、各地方公共団体主催のIT講習会というのを市・区報などで大々的に宣伝している。これは前の森首相が言い出し、全国の550万人に対して550億円の予算を使い、パソコンの基礎を教える、という計画である。これを利用しない手はない。何しろ、無料で、しかも若い女の先生(多分!!)が丁寧に教えてくれる。

  今まではホームページも何かを調べるため、人のを見るため、であったが、今後は時間も充分あるし、レゾンデートルのためにも、自分のホームページを持ち、エスペラントに対する自分の考えなどを公にしようと思った。解説本を買い、分からないことは人に聞きながら、まず1ページのホームページを完成。次々に追加していったので、今では10ページ以上になり、更新するのもちょっとした仕事である。特に、その中に「私の月記」というページを作り、ちょっとした出来事などを月に1回程度は書き込んでいる。それで日記ではなく、月記と称しているのだが、これは友人などに近況を知らせる役目も担っている。

  そして、99年の6月に待望の定年になり、7月にはベルリンの世界エスペラント大会に参加のため、成田空港を飛び立った。66ヶ国の2700人が参加する予定である。

  世界エスペラント大会参加のため、成田空港を飛び立った我々はフランクフルト空港に到着した。先ず、世界の10数ヶ国の人々とロマンティック街道への大会前ツアーに参加、のち、1週間はベルリン市内のホテルから市の外れにある国際会議センターに通った。夢に見た大会参加であった。ベルリンの友人にも会い、家にも招待された。首都機能がベルリンに戻ってくるので、街はわき返っていた。2週間は夢のように過ぎてしまった。これは定年直後であったので、人生の区切りをつける良い機会となった。(この大会の報告はこちら

  以前から、時間的な余裕が出来たらやりたいと思っていたのはハンディキャップを持った人に対する支援であった。ちょうどそのころ、区報に"ぱそぼらん"という、障害者が自己表現・コミュニケーションツールとしてパソコンを使えるよう、ボランティア活動を行なっている団体のことを知った。一般の人がパソコンを使いたいといっても、それは生活そのものではないが、障害者にとってはパソコンというのは頭脳代わり、足代わりであり、生活必需品といえる。しかも物理的にも一人では出来ないことも多い。そこで"ぱそぼらん"のようなボランティアが必要になる。同じ"パソコンができない"といってもその中味は大違いである。好きなパソコンと、予てから考えていた、障害者に対する活動がうまくミックスし、今に至るまでこの活動を行っている。個人の家に行って、パソコンをセットアップしたり、新しいソフトの使い方を教えたりする個別の活動と、公共施設に複数の人に集まってもらい、共同の講習をしたりしている。

  またそのころ、あるNGO団体で財源不足で編集者が不足し、情報誌の発行にも難渋しているので、ボランティアで入力・編集が出来る人を探していることを知った。私はパソコンはWindowsを使っているが、そこではMacを主に使っていた。まあどっちもそう違いはないし、Macもちょっと勉強すれば出来るだろうと協力を申し出、採用された。実際にはWindows器械が2台、Macが4台あったので、私はWindowsでテキスト入力を行い、Macの編集ソフトで編集している。これも定年後の新しい挑戦であったが、パソコンはやってみれば、大体大したことはない、と思っている。ここには今も週2回行っている。この経験から、最近はパソコンが出来ないと、ボランティア活動の幅も狭まるなあ、と思うようになった。

  最近は友人からも声がかかり、パソコンについての支援を求められることが多い。"熟年パソコン教師"と呼ばれるようになった。そして、この友人がメールが使えるようになると、その後もメールを通じ、交流が続くことが多い。こうしてメール友達は100人以上になった。

  私もまだ定年になって、あまり間がなく、今後どう生活が変わるか分からない。しかしやはり、充実した定年後の生活を送るには、事前の準備が必要だと思う。出来れば1年くらい前から、自分は何を核にして今後の生活を送るのかを考えておく必要があろう。毎日が日曜日ではやはり無理である。毎朝、起きた時に今日もすることがない、と悩んでうつ病になった人もいる、と聞いた。せっかくだから、何らかの意味で"ひとのためになるもの"なら、なお更良いのではないか。別に肩肘を張らなくても良い、自分の出来る範囲で、気を楽にして活動すれば良い。それは人のためではあるが、実は自分のためなのである。

(ここに掲載に当り、固有名詞の削除など一部修正しました)


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